経験に基づく
ムシトリスミレ栽培法
田村 統
食虫植物愛好家のなかでもムシトリスミレ属は人気の高い食虫植物です。その理由として、温帯高山性のムシトリスミレは栽培困難なものが多いのですが、温帯低地性や熱帯高山性のムシトリスミレは特別な加温設備を必要とせず、簡単な設備で栽培を楽しめる事。食虫植物のなかでは最も美花である事。植物が小型なので小面積でも、いろいろな種類が栽培可能である事等が挙げられます。さらに近年様々な種類が導入され一層興味関心につきない食虫植物と言えます。もし、現在、ムシトリスミレを余り栽培されていないのでしたら、ぜひ栽培してみて下さい。その時、私の経験談がきっとあなたの栽培を成功させる事でしょう?
1.種子は極力ばらまきにする事。
P.lusitanica,sharpii,ionantha などは比較的簡単に種子が取れますし、良く発芽します。したがって小苗の移植時に根を傷め、後々成長が悪くなる事がありますので、ある程度蒔き床で成長させてから移植できる様に余裕をもって蒔いたほうが良いでしょう。勿論横着をして過密な苗を移植しないでいると多くの貴重な苗を枯死させる事になります。なお、実生床には水苔粉を使用しています。また、ピ−トモスと極小粒の鹿沼土の混合土を使う事もあります。成長はやや水苔の方が良好に思います。
なお、primulifloraは不定芽により急速に増殖しますが、放置しておくと葉の下に苗が埋もれてしまい枯れるので適時苗を間引き、別の鉢に植え替えます。grandiflora の小冬芽も邪魔くさがらずに外して、別の鉢に植える様にしないと無駄になるものも多くなります。
2.開花したら念の為に交配しておこう。
種子を採る場合はlusitanicaの様に放っておいても自家受粉するものもありますが、ionanthaやメキシコ産ムシトリスミレ等は交配してやると良く結実します。ただし花の構造を良く理解していないとionanthaやcaeruleaは花弁に雄しべに似た付属体が着いていますので注意して下さい。良く分からない時は花弁を除去し、子房を露出させ交配して下さい。子房の先端に雄しべ、雌しべがあります。
なおメキシコ産ムシトリスミレは交配種も産出できるようですので挑戦してみて下さい。なお、以前pumilaを入手し開花したのですがなかなか受粉しないばかりか、すこしでも花茎を痛めてしまうとすぐに倒れてしまい、結局種が採れずに枯れてしまいました。栽培に成功している方の意見を聞かせて頂きたく思います。
3.子房が黒くなってきたら、忘れずに種子を採ろう。
せっかく無事結実してもうっかり種子を飛び散らせてしまうともうどうにもなりません。子房に亀裂ができたらすぐに播種できる様実生床を準備しておくのが良いでしょう。なお、発芽した苗は散水や雨により、飛び散ってしまう事がないように上部にカバ−をかけ、腰水のみで管理します。
4.北アメリカ産低地性ムシトリスミレは根が命!
ionantha,caerulea,primuliflora等は用土が古くなると根腐れしやすいようです。できれば1年に一度は新鮮な水苔で植え替えるのが望ましいと思います。もし万が一回復が無理と判断すれば、早めに葉をばらして葉伏せすれば苗が得られることもありますが、基部まで腐っているとまずダメでしょう。
5.ヨトウムシは水責めで退治
ionantha,primuliflora には時折ヨトウムシ(イモムシ)が発生します。この虫は大食漢で葉や新芽をボロボロに食い荒らします。夜間地上に姿を表した時に捕殺するか、発見できない時は隠れていそうな鉢を数分間水没させておけば、用土中から這い出てきます。早めに処置しないと大変な被害を被ります。
またアブラムシもよく発生します。特に葉裏に潜り込まれたりするとなかなか捕殺しにくく、何か良い方法はないものでしょうか?
6.ツユムシ(スイッチョン)にはペットボトルでカバ−する。
野外栽培をしているとツユムシ(バッタの一種)に食害される事があります。捕殺することが困難なのでペットボトルを切断したカバ−を作り、被せておきます。なお、蒸れが心配であれば適当に切れ目を入れて通気を良くしてやれば良いと思います。ペットボトルは給水装置などにも利用でき大変便利です。
7.入手した植物は、早めに苗作りに励む
特に1株だけの場合は事故で全滅する事が多々あるので、機会があるごとに苗作りに努力します。できれば入手した時に葉伏せなどができれば良いのですが、衰退した苗の場合は調子が回復するのを待って苗の生産に努めます。
メキシコ産ムシトリスミレ、特にesseriana やehlersae,cyclosecta などは葉伏せすれば100 %近く成功しますが、moranensisは、発芽する前にかなり腐る葉が出てしまいます。何か良い方法はないものでしょうか。御存じの方アドバイスお願いします。また、葉伏せした苗はハイポネックス等を葉面散布してやれば、中には1年で開花するものも出てきますし、2年目には多くの苗が開花する様になります。まず、primuliflora,lusitanica,esseriana,grandiflora の栽培に取り組む事が、ムシトリスミレ栽培のマスタ−への近道と思います。